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2016年1月20日水曜日

未分類:第30回戦 バカで愚かな女

目が覚めると白い天井が見えた。

顔に違和感を感じる。

ぺリぺリと剥がすと、白い紙が顔に貼りついていた。

枕元はティッシュだらけだ。

そうだ、全て失ったのだ。

4年間、自分の全ての時間と全財産を掛けて打ち込んだ会社が昨日終わった。会社を立ち上げてから、エリの給料を優先して払ってきたので自分の給料は後回しにしてきた。

前の会社を辞めてから6年間、自分は殆ど給料を取らずに貯金で生活してきた。証券口座の資金も注ぎ込んだので、すっからかんだ。

「はは、やるね。エリちゃん。ぐうの音も出ないよ」

都内の高級タワーマンションの一室。

無収入の今では家賃が高過ぎるだろう。

あぜ道の多い田舎で育った自分には、不似合いだなと思わず笑った。

「なんで、こんなことになったんだろ」

低学歴の私が、そもそもなんでこんなところに住んでるのだ。

そもそも私は、毎日意地悪されては泣いている気が弱い女の子だった。

母さんは、子供の頃から「萌絵ちゃんがやりたいことは何でもできるのよ」って言ってたのに、夢は何一つ叶わないまま、家族と離れた療養所で二ヵ月過ごし、誰一人訪れないままに成人した。

ここを出たら、全ての時間を自分のやりたい事の為、夢を叶える為に使うんだ。そう誓った。
家に戻ると父は失踪していた。
倒産して全財産を失ったのだ。
無我夢中で就職して、田舎の小さな町工場で事務員になった。
普通のOLだ。

仕事はつまらなかった。

お金も無かった。

それが不満だった。

母さんに夢が叶わないと文句を言った。
「努力すれば夢なんていくらでも叶うのよ」

それが彼女の答えだ。

お金の為に投資を始めた。

転職したくても、スキルが無かったので英語とパソコンの勉強を始めた。

皆に「おまえみたいなバカには無理」と嘲笑われた。

馬鹿にされたくなくて頑張った。

頑張ったら、商社に転職できた。

ところが転職をしても、転職をしても待遇は良くならない現実に絶望した。学歴が無いと笑われて、バカにされて、非正規雇用を転々としたのだ。

だから、努力して大学に入り直した。

学費は無かった。

単位を取りながら五つの仕事を掛け持ちした。

リサーチの仕事で株の知識を深めた。

夫が勉強を教えてくれていたので、少し賢くなった。

最初は褒めてくれてた夫も、いつかは褒めてくれなくなった。

夫が外資金融に勤めていたので憧れて、外資金融に自分も入ることにしたのに夫は反対だった。

結果的に離婚になった。

彼と暮らしていたタワーマンションを出る時、「いつかは自分のお金で高級タワーに住む」と誓った。

そのタワーマンションに引っ越す時が来た。

同じタイミングで金融機関も辞めた。

就職はしなかった。

職を転々とした自分を戒めるためだった。

また、トレーダーに戻った。
生活は出来た。
ただ、虚しかった。
その時、コンサルやってくれと3社くらいから声が掛かった。
成功報酬でのコンサルでお金をまあまあ貰った。
ある日、女友達が遊びに来た時に私の部屋を見て、

「男に毎月いくら貰ってるの?私にも金持ちの男紹介して」

と聞かれた。
驚いた。実は恋人にお金を貰ったことは無い。(プレゼントはある)
目を見張って彼女を見た。

友達面して、「もえちゃん、仕事頑張ってて凄いね」と言いながら、心の底では私のことを愛人業で稼いでいる女だと見下していたのだ。

彼女とは喋らなくなった。いや、喋れなくなった。彼女の嘘と建前の会話についていけなくなった。
もっと、難しい仕事がしたいと思った。
誰にもバカにされない仕事。

社会の役に立つ仕事。
世界で通用する仕事。
そう思っていたら、マイケルと知り合って、原発事故が起こったのだ。
それで、この会社を立ち上げた。

何でも努力で乗り越えてきた。

だから、何でもできると思っていた。

いや、驕っていたんだ。

運が良かっただけなのに、甘かったんだ。

「なんだろう」

また、泣けてきた。

バカにされたくないと思って、意地張って生きてきて、気が付いたら訳の分かんないところに辿りついた。

そう言えば離婚の時、彼は「女は愚かだ」と言った。

彼の言う通りだ。私はいつまでも夢を見るバカで愚かな女だ。

結婚生活を続けていれば、どれだけ幸せだっただろう。

孤独に苦しむことも無く、楽しく生きていけたはずだ。

努力すれば、何でもできるなんて幻想だったのだ。

午前10時。

泣いている場合じゃない。

これから裁判だ。

着替えようとクローゼットを開ける。
ブランド物の山。
無駄遣いせずに現実的に生きるべきだった。
自分の愚かさを悔いながら、家を出た。
東京地方裁判所にはその日も梶原弁護士の部下宮西弁護士がいた。
こちらは畑中事務所の先生だ。

裁判は先生に任せて、深田は力なく傍聴席に座った。
『自分みたいなバカ女に出る幕は無い』と、そう思って、裁判を傍観していた。
遠田真嗣裁判官がアルファアイティーシステムの弁護士宮西に向かって、
「さて議論も出尽くしたので、次回は証人尋問をやって、その次判決を出しましょう」
と言った後に私の代理人を振り返り、
「被告代理人もそれでいいですね?」
と聞くと、こちらの代理人がおどおどしながら、「え、ええ」と答えかけた。

「ちょっと待てぇ!」

法廷に女の声が響いた。

傍聴席に座る弁護士たちが何事かとこちらを振り返った。

私だった。

立ち上がっていた。

自分でも気が付かなかった。

「被告は異議があるのですか」

遠田裁判官が冷たく言い放った。

法廷で傍聴席から声を上げることは禁じられている。

心証を悪くすれば裁判で負ける。

弁護士から100回言われた言葉だ。

心証悪いも何も、負けが見えてる。
それどころじゃない。

「被告」

また、裁判官から呼ばれる。

緊張で喉が張り付く。
「うちの副社長が失踪して、裁判記録の原本もこちらに有利な証拠も何もかもなくなっているのにそれで公正な裁判ができるのか!」
「では、証人尋問は?」
「まだ議論は出尽くしていない!」

叫んだ。
既に会社を失った。裁判まで負けたら、人生まで失う。
「それでは一カ月後にもう一度口頭弁論を開きます」
「一カ月では無理だ。証拠も記録も全て失って、一カ月で準備しろと言うのですか」
粘った。自分で裁判の書類を用意するにも時間が必要だった。
「それでは、二カ月後にしましょう」
そう告げられて、裁判官は法廷を後にした。
エレベーターで自分の代理人が「先ほどはありがとうございました」とお礼を言ったが、何も答えられなかった。
弁護士が、法廷で私の代弁をしてくれたことがない。
異議を唱えるのはいつも自分だ。
深田はタクシーで自宅に戻り、部屋にあるブランド物バッグやアクセサリーを集めて紙袋に入れた。元彼からもらったティファニーのダイヤも一瞬手に取ったが、躊躇して棚に戻した。
紙袋を掴んで、車で銀座へ向かった。
まだ、戦える。これからは自分で戦うんだ。
「え、これ、全部ですか?」
ブランドショップ買取専門店の店員が驚いた。
「はい、全部です」
深田は応えた。
今の自分には、必要ないものだから。
TO BE CONTINUED

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