第39回戦 忍び寄る鴻海テリー・ゴウ③
(2014年9月頃)
「フカダ…。今日は裁判なの。弁護士を雇うお金も無いから、心細いわ」
台湾から、電話がかかって来た。マイケルの台湾公開企業アトム・テクノロジーの秘書ジュディ、現在は清算人だ。
元株主の黄氏は、納税義務の無い清算会社アトムを訴えた。つまり、なくなった会社が税金を払っていなかったと主張して損害賠償請求を行ない、マイケルの知的財産権は全て株主にあると主張しているのだ。
「清算結了後の納税義務を怠った件でしょ?会社はもう無いのに、負けるわけないよ。頑張って」
「フカダは台湾の事、分かっていない。台湾は青幇が国会も警察も司法も全てコントロールしているのよ」
「でも、さすがに存在しない会社の納税義務を議論するとか、ちょっと難しいんじゃないかな。淡々と事実を応えれば大丈夫だよ」
深田はジュディを諭して電話を切った。少し、落ち着いてくれたらいいけど。
自分も最初は裁判が怖かった。でも、何も悪い事をしていないので事実を淡々と述べるだけでいいということが分かった。
マイケルが2005年にFBI被害者保護プログラムでアメリカへ亡命し、その後の公開会社アトムの清算手続きを行なったのはジュディだった。
「まったく、どいつもこいつも・・・」
中国共産党配下のスパイと組んだ青幇はしつこい。こないだの産業開発センターにも元副社長がパシウム・ディスプレイの権利を求めてきたところだ。
― パシウム・ディスプレイ
ま
だ出来上がってもいない、マイケルが構想中のディスプレイを自分のものだなんて、どうにかしている。パシウム・ディスプレイのネーミングの時に、深田とマ
イケルが口論になったことがあったが、その時に仲裁に入ってくれたのは紛れもないエリちゃんだった。パシウムでは、日本人に発音がしにくいしイメージが湧
かないから、情熱と掛け合わせて『パシオン』にしようと深田が提案したところから口論になったのだ。
「萌絵ちゃん、マイケルさんがパシウムと呼ぶには理由があるんですから、そうしてあげたらいいんじゃないですか?」
あの時もエリはそう言って深田の肩をポンと叩いた。
エリちゃん。なんでだ。
また涙が出そうになったが、グッと堪えた。
きっと、すぐにジュディから報告の電話が入るだろう。
感傷に浸っている場合では無い。
何が起こってもいつでも冷静でいなければ、頼りにしてもらえる人間にはなれないのだ。
ルルル。
オフィスの電話が鳴った。
「フカダ、大変よ」
ジュディだ。
「今度は何?」
「黄氏がパシウム・ディスプレイの権利を主張してきた」
「何?マイケルの3Dディスプレイの権利を請求してきたの?」
「違う、300万ドルが払えないなら、ヴァトロニと『パシウム・ディスプレイの権利』を株主に譲渡せよと名指しで主張してきたの」
受話器を持つ手が震えた。
パシウム・ディスプレイなんて商標を知っているのは、10人もいない。産業開発センターでは「光線再生方式のディスプレイ」として提案したので、知っているのは取引先一社と横田君、ダイちゃん、マイケルと私くらいだ。
そして、エリちゃん。
「元株主はディスプレイ開発していないでしょ?関係ないじゃない」
「事情が変わったの、フカダ。そこの社員の話によると、最近、ディスプレイ工場を買った台湾企業が元株主の会社に出資したらしいの」
ディスプレイ工場を買った台湾企業?
いったい、それってどこの会社だ?
TO BE CONTINUED
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