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2015年12月31日木曜日

事件サマリー:第33回戦 年賀状



エリが消えて数カ月。
ゼロから再出発した会社は支持者たちに支えられて幸運にも持ち直し、展示会にも出店できるようになった。

念願の展示会出展は四年目にして叶った。

パシフィコ横浜にある展示会で小さなブースを構え、深田は新製品宣伝のビラ配りをしていた。
「え、これ、本当に無線なの?」

「はい!良かったらシステムをご覧ください」
最新の低遅延型動画伝送システムに対する引き合いは多かった。
高画質、高速伝送、安定出力、どれをとっても世界最高だ。
それを自分のようなお姉ちゃんが売っているとあって、業界でも話題になっていた。

『もっと早く展示会に出展できていたら・・・』
マイケルの技術に惚れ込んでいたのは、むしろエリだ。
エリはこの技術を広めたいと言って、展示会に出ては『自分達もいつかは』と言っていた。
今、ここに二人で一緒に立っていたら、エリは喜んで集客しただろう。

マイケルはエリの話をしなくなった。
自称メンタリストの深田の母が東京のオフィスに来たとき、
「未練がましい女、発揮やな。エリちゃんなんかに対して」
と言ったのをマイケルは覚えているのだ。

マイケルは深田に気遣って『エリ』と名の付くものを全てに違う名前に与えた。

弁護士のエリザベスを『おばさん』、キノコのエリンギを『長マッシュ』、取引先の別のエリを『モモちゃん』と勝手に名前を付けて呼ぶ始末になった。

『おばさん』と呼ばれたエリは怒り、『モモちゃん』と名付けられたエリは喜んでいる。

頭が良い奴は気遣いもひねくれているので、こちらの対応も面倒臭い。

「これ、すごいですね」

声を掛けられて現実に戻る。
スーツの男性が興味深そうに新製品を見ている。
「これ、全てチップ処理なので早いんです」
動画の処理は通常重たい。それを完全チップ処理にしているので高速化が図れるのだ。

「実は自動車メーカーがうちのお客さんなんですけど、受託の仕事とかやっていますか?できたらお願いしたいことがあって」
そう言って、彼はソフトウェア会社ソフト社(仮名)の吉田氏(仮名)が名刺を出した。

「是非、お願いします!」
ようし、顧客ゲットだ!

後日、ソフト会社の吉田氏がオフィスにやって来た。
カメラもディスプレイも基板も、デモ機は万全の態勢だ。スイッチオンするだけで、いつでもオッケー。

「人工知能の開発できますか」

「え?」
人工知能?そんなの製品リストにもなければ展示もしていない。
「車の自動制御に人工知能が欲しいんです」
深田はマイケルを振り返った。
人工知能開発なんて、うちの業務外だ。

「人工知能なら既にコアはあります」
深田は目が点になった。四年間一緒にやってて、人工知能が開発できるなんて初耳だったからだ。

「うちのエンジニアはミシガン大学で人工知能の研究をやっていました。Googleの検索エンジンを開発したCTOより、彼女のほうが成績は良かったんですよ。それに、元々巡航ミサイルの為に人工知能を開発したこともあるので、車なら相性がいいかもしれない」
マイケルは淡々と続けた。
しかし、どこまで行っても引き出しの多い奴だ。

「すみません、ただ、今期は開発費が少なくて1000万円くらいしかないんです」
通常、人工知能の開発は十億単位なので、桁が2つ足りない。
深田は、「ハァ?」と言いそうになったがマイケルは「いいよ」とアッサリ答えた。

「1000万円で?」

「1000万円でもいい。ただし、簡易版だけだ」
マイケルは応えた。

「そうですか!是非お願いします!」
ソフト社は喜び勇んでスキップして帰っていった。

「マイケル、どうするの?」

「なんだ?」

「人工知能」

「作れるぞ」

「作れるのは分かる!でも、エンジニアも足りないし、コーディングの人員どうするのよ!1000万円なんて安値で引き受けたら、外注費であっという間に赤字よ」
深田はキレた。ありものを売れば、コストを抑えられるけど一から開発となると金ばっかりかかって仕方がない。
今は、確実に黒字のプロジェクトしか取りたくないのだ。

「大丈夫だ。権利は渡さないし、ライセンス料も毎年貰う。プログラマーだけ確保すれば、何とかなる」

「そのプログラマーの調達で世界中が人材難なのよ!」
SNSの台頭で、殆どのプログラマーはFacebookやオシャレなシリコンバレーの会社に年収20万ドル以上で流れてしまっている。

「俺には案がある」
そう言ってマイケルは笑った。

次にソフト社に打ち合わせた時も感触は良かった。
「もう発注準備はしています。ただ、車メーカーさんの要望で納品は来年の2月20日でお願いしたいんです」

「2月20日!?」
いま既に、クリスマス前だ。2ヵ月で仕様固めからコーディングなんて無理過ぎる。

絶対に無理と深田が言いそうになったところ、「大丈夫」とマイケルは事もなげに答えた。
これまでのパターンで行くと、常人が不可能だと考える開発もマイケルが「大丈夫」と言った時は実現してきた。実績はあるけど、プログラマーが足りていないので不安で仕方がない。

「すみません、それより発注間に合うんですか?」
深田は事務処理の心配をした。
マイケルのことなので、やると言ったら裏の手を使うのだろうけど、問題は日本企業の体質だ。契約書やら信用チェックまで何カ月かかるか分からない。

「そこなんですよ、発注書が出るのが今だと早くて年末とか、下手したら1月過ぎるんですよね。それでも、やってもらえませんか?」

「ダメで・・」
「いいよ」
マイケルがアッサリ答えた。
「ギリギリでも発注書が来れば納品するよ」
そう続けた。
それを聞いてソフト社はまたルンルンになって帰っていった。

深田は頭を抱えた。発注書が来る前に仕事始めたらトラブルの元だ。
「マイケル、おかしいよ。これまで詐欺を働こうとしてきた会社と同じで発注書なしで仕事させようとしているんじゃない?」

「俺、人工知能の方が好きなんだよね」
マイケルの答えに、深田はお茶を吹き出した。
作り上げた世界最高の新製品にはもはや興味が無いようだ。

マイケルは天才過ぎてマイブームの移り変わりが激しい。
好きなものを作るだけで、あらゆる人が金を積んできたので自分が作りたい物以外に興味が無いのだ。

「ところでマイケル。人工知能なんて、いつの間に作ったの?」

「米軍の仕事している時だ。うちの製品には全て人工知能が入っている」

「ハア?」
知らなかった。

「お前、バカか?ソフトウェアをチップにしただけで処理が速くなるなんて伝説だ。俺はチップに人工知能を埋め込んで無駄な処理はさせていない。だから早いんだ」

「そういう事だったの?何それ、企業秘密?」

「当たり前すぎてお前に説明するのを忘れていた」

「言ってくれてたら、会社のホームページで大々的に宣伝したのに!このバカ!!」
マイケルは頭が良すぎて、たまに抜けているのだ。
人工知能なんて受託開発だけで数十億は取れるのだ。
そんなことを知らなかったなんて、と、深田は地団太を踏んだ。

「おい、待て。会社のウェブサイトに人工知能の事を載せてなかったのか?」

「載せるわけないでしょ。社長の私が知らないんだから」

「じゃあ、なんで彼らは来たんだ?」
マイケルの言葉でハッとなった。

言われてみればそうだ。
人工知能開発は、ウェブサイト開発とはエンジニアの知能レベルが1万倍違う。
人工知能開発に人間知能が必要だと言われている分野だ。
通常は実績のある会社にしか発注しない。

振り返るとマイケルは頷いていた。
「発注書が来るまでまとう。これも中国共産党の罠かもしれないからな」

「エリかも」

「エリは、俺が人工知能開発していたことを知らない。中共だけだ」
マイケルは応えた。

その日から、深田はソフト社からの発注を待った。
メールで催促し、電話で催促もした。
返事はいつも「お願いする為に発注準備をしていますので、先にプログラミングを始めておいてください」だった。

年の暮れになっても発注書は来ず、聞けば「今用意しているから、開発だけ始めておいてくれ」とだけ言われて、仕方なく12月31日に深田は実家へと帰った。

実家のダックスフントの太郎を抱っこして、年始は布団の上でゴロゴロしていた。
太郎は大人しいM男だ。
どんなに意地悪しても怒らない。

太郎の耳を引っ張って遊んでいると、
「また、エリちゃんか」
と母さんがポストを開けながら呟いた。

「え、何、母さん」
エリがどうしたのかと思って起き上がった。

「いや、あんたの旧会社の郵便物をこっちに転送してるけど、エリちゃん宛ての郵便がけっこう来るねんな」
年賀状をチェックすると数枚ほどエリの年賀状が混ざっている。

「あれ?」
ソフト社の吉田さんがエリ宛に年賀状を書いている。『今年も宜しくお願い申し上げます』ってどういうこと?

吉田さん、エリが失踪した数カ月後に知り合った人だぞ。

「なんだ、そういうことか」
深田は笑いがこみ上げてきた。
私を潰すためには、そこまでやるのか。

マイケルにそのことをメールで報告すると返信が来た。

「プレイヤーはエリだが糸を引いているのは間違いなく共産党だ。エリは人工知能の事を知らない。それに、上場しているソフト社がエリ個人の為には動かない。裏で巨額の金が動いている」

彼女は、消えたかのように見えて影のように付きまとうようになった。
私の周囲に現れる全ての人間を利用するのだろうか。

「母さん、私、また友達できるかな?」

「あんた、その前に結婚しーや!」
(´・ω`・)エッ?

TO BE CONTINUED

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