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2015年12月14日月曜日

事件サマリー:第24回戦 ベンチャーキャピタリスト②



流暢なLAアクセントが利いた英語。
光沢感のあるイタリア製のスーツに程よく焼けた肌が輝いている。それが246のキャピタリスト。どこからどう見てもかっこいいのだ。

「御社への投資には、条件があります」

「なんですか?」

深田だけでなく、マイケルとエリにも緊張が走った。

「深田さんとエリさんを取締役から降ろすこと。もう少し見栄えのする経営陣をハーバードから僕が引っ張ってきますから」

キャピタリストは眼光鋭く応えた。

エリは普段のニコニコ顔がサッと曇った。それはそうだ。資料もたくさん作ってきたし、自分は副社長になったんだと周囲にも伝えて頑張ってきた。キャリアは彼女の誇りなのだ。

逆に、深田は、降りろと言われて、ショックよりも何処と無く肩の荷が下りたような気がした。原発事故や津波被害の為にと思って、この技術を日本で展開しようとしたけど何年もスパイやらインテリヤクザやらから厭がらせをされて正直参っていた。若くしてまぁまぁ稼いだ。それでいい気になって、自分は何でもできると勘違いしてこの会社を始めたのは身の程知らずだったのではと感じていた。

二人はお互い異なる気持ちでマイケルを振り返った。

「取締役?エリは降ろしてもいいよ。深田はダメだ」

その場にいる全員がマイケルの言葉に凍り付いた。キャピタリストも想定外のマイケルの反応に言葉を失った。

深田はチラリとエリを見た。エリが副社長になってから、前に出過ぎないように気を使ってきた。なのに、マイケルは、深田が一番言って欲しくない台詞を言ってしまったのだ。

翌る日、エリは会社に来なかった。
数人しかいない会社は、一人いないだけでガランとする。

「マイケル…なんであんな事言ったの?」
深田は、イヤホンで音楽を聴いていたマイケルを突いて問いただした。

「そう思い付いたからだ」
マイケルはイヤホンを少しズラして、こともなげに応えた。『三年間一度も休んだ事のないエリがいないのに何とも感じないのか?』深田はカッと来る。

「エリは、この会社を愛してるのよ!会社の為にあんなに頑張ってるのよ!どうしてそれが分からないの?マイケルは人間の気持ち、分からないの?」

「会社の為?ハハ、それはどうかな。お前は人間の気持ちも考えも分かっていない」

マイケルはそれだけ応えるとイヤホンをまた付けて、設計の世界に没頭した。

数日後、深田は書類を持って246キャピタルに向かった。

「おはようございます」

見慣れない妙に若い女性が深田を迎えた。

「あれ?」
「あ、すみません。インターンなんです」
「そうなんですか。お若いですね」
「20歳です」
色白の肌に大きな瞳、一瞬タレント事務所に所属してるのかと思うくらいの美人だった。
「どちらの大学ですか?」
「ふふ。しょうもない大学なので言えません」
ん、と深田は思った。インターンなのに大学名を隠すだろうか。
「へー、どこに住んでるの?」
「歩いて40分くらいのとこです」
彼女は愛想よく笑った。
深田は奇妙な感覚を感じながら、ミーティングルームの席に座った。

「深田さん、どうも」
イケメンキャピタリストが現れた。
「投資の条件に、売上の1割をうちに払うという契約書にサインして欲しいんです」
「ええ?」
株式投資にリターンを保証するのは、明らかな金融商品取引法違反だ。
「すみません、金商法…」
「あ、もちろんです。金商法には引っかかりたくないので、契約書は投資契約と顧問契約の二枚に分けます」
それがストリートスマートだと言わんばかりにキャピタリストは笑った。
キャピタリストの隣に例のインターンがチョコンと座っていた。

ふと見ると、彼女が服の上からキャピタリストの股間を触っていた。
「あ、深田さん。この子?いいでしょ。清純で。すごく癒されるんです」
彼女は深田を上目遣いで見つめる。いかにも「深田さんもどう?」と言わんばかりの挑発的な瞳に口元には笑みを浮かべている。

「あ、すみません。今日は忙しいので、こんなもんで」
深田は慌てて荷物を片付けて、トンズラこいた。
『ヤバい。かなり斜め上からの攻撃だ』
あの20歳の美人は、中国からのハニートラップだ。間違いない。
大学名も応えない、歩いて40分くらいのとこに住んでるとかいう謎の女がまともな女の訳が無い。

「マイケル!!キャピタリストのとこに、ハニートラップがいて!股間触ってた!!どうもそれは清純らしい!」
深田はオフィスに戻るなり、英語でそう叫んだ。

「ハニートラップか。俺の行くとこ行くとこに、ハニートラップやらジゴロトラップやら現れて、世の中忙しいな」
マイケルはパソコンモニターを見つめたまま、深田を振り返りもせずに応えた。

深田はエリに電話をした。
「エリちゃん、投資断った。エリちゃんがいないと会社が回らない。良かったら、また来てくれないかな?」
電話の向こうでエリがクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「いいですよ」

エリの言葉に深田は飛び上がった。
やっぱり親友だ。
エリちゃんが、親友で、自分には必要なのだ。

ニコニコして電話を切った深田を見て、マイケルはやれやれと言った風に溜め息を吐いた。

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