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2015年12月13日日曜日

事件サマリー:第20回戦 ファーウェイ再び!



「被害届けは受理できません」
警察官に冷たく言い放たれて、深田はがっくりきた。お馴染みの中央警察で、サーキットから納品されるべきものが納品されなかったことを相談していた。
「でも、納品日に納品されるべきデータが、データではなくて紙切れだったんですよ。詐欺じゃないですか」
「紙切れでも納品物がある限り、詐欺には当たりません」
「何百万円も払って、紙切れ納品で詐欺じゃないんですか?」
深田が食い下がる。
「対価が存在する限り、詐欺ではありません」
「じゃあ、ダイヤ買う為に何百万円払って、ガラス玉だったら詐欺じゃないんですか?」
「関係無い話をしないでください。被害が無いので被害届け受理できません」
深田はため息を吐いて、警察署を出た。相談すればするほど、虚しくなってしまった。どう考えても損害が出てるのに、警察に損してないと言い張られてしまってはどうしようもない。

「萌絵さん、お帰りなさい。どうでしたか」
エリが明るく迎えてくれたが、深田は黙って首を横に振った。
「エリちゃんは基板メーカー見つかった?」
エリも首を振る。基板メーカーが見つからなければ、納品が危うい。
基板屋が一番儲かるパチンコ業界との繋がりの深い大手が既に裏から手を回しているようだ。しかし、藪蛇どころか自ら地雷を踏みに行ったようなものだ。
「サーキット社が中国と繋がってるなんて、外から全く分からないよな」
次から気を付けようにも、資本主義社会なのに資本関係は外から全く分からない仕組みになっているから気の付けようがない。
「深田、これを見ろ」
マイケルがある企業の会社概要を見せてきた。
「なにこれ」
「サーキットが取引しているシリコンバレーの会社だが、取引先を見ろ。中国で軍事衛星を作っている会社だ」
「軍事衛星…」
深田は、脅してきた大手基板メーカーのウェブサイトを開けると、そこにも衛星関連開発事業と表記されてる。
「解放軍の軍事衛星開発企業と提携している会社が、日本の大手基板メーカーの衛星関連部門の下請けだとすると悲惨だな」
「どういうこと?」
「最先端技術の試作機は必ず基板開発が入る。ところが日本の基板メーカーが解放軍と組んでるとはな。日本も脇が甘い」
深田はため息を吐いた。最近、ため息をつきっぱなしだ。
「萌絵さん、大変です」
受話器の口元を押さえながらエリが深田を呼ぶ。
「毎日大変大変言うなぁ!」
深田がキレ気味に答える。
「元請け会社から、基板が作れないなら納期が危ういので、ベンダーを差し替えたいとのことです」
「た、大変だ!」
「とにかく、S社の部長が今から来るそうです」
時計を見ると既に8時だ。
「じゃあ、俺は時差で眠いから帰る」
「あ、マイケル。帰っちゃうの?」
「俺の仕事は開発。ビジネスはお前。そう決めたのはお前だろ」
確かにそうだ。マイケルが営業に出ると、お客様の欲しいスペックの千倍くらいの提案をするので、お客様から「弊社は宇宙船を作りたいわけではございません」と断られてしまう事件が続発した。
財務を見る予定だった深田が営業に出ないと売上が立たない所以だ。「じゃあな」と言ってマイケルは去っていった。
「相変わらず、宇宙人な奴だ」
「日本語分からないですから、いいじゃないですか」
エリは深田をなだめる。創業当時から、ほぼ毎日一緒にいるエリはいまや深田の大親友だ。そうだね、と言って深田も笑みを見せた。エリが居れば、なんでも乗り越えられる。

S社の部長がやってきた。国家研究所の3次元動画伝送装置の元請け会社だ。特殊な装置で、1ラックのサーバーで100チャンネル以上の動画を同期させて伝送するという技術的に難しいシステムだ。国内大手メーカーがこの装置開発を悉く断ったのだが、マイケルはアッサリと「簡単にできる」と答えたところからこの仕事ははじまった。
「深田社長、新しい基板メーカーは見つかりましたか?」 
部長は高卒の暴走族上がり、一見優しそうだがたまに目の奥がキラリとするどく光る。
「いや、それがまだ少し…」
深田は口籠った。国内大手基板メーカーが敵側に回り、ありとあらゆる取引先を脅して回っているなんてとてもでないけど言い出せない。
「深田社長ね、御社の開発が納期に間に合わないなら代替案があるんですけど、うちの取締役が長年ある企業の日本支社長と友達で偶然御社と似たような製品があるって言うんですよ」
「そんなはずない!」 
100チャンネルフルHD動画から三次元映像を作るシステムなんて、研究所以外需要はない。
「ここに、その製品概要があります」
パサリと捲られた資料に、大容量動画伝送装置の概要が描かれていた。
「オタクのにソックリなのがあって良かったと、うちの取締役も喜んでましたよ」
そんなバカな。
こんな特殊なシステム、動画技術最先端のNHKのベンダーですらソリューションを持ち合わせていない。
深田はページを捲り、このソリューションのベンダーを探した。
開いた花びらのロゴマーク。
これは、紛れもなく。
「フ、ファーウェイ!?」
深田とエリは声を一つにして叫んだ。

深田の運命やいかに!?

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