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2015年11月11日水曜日

事件サマリー:第9回戦 衛星ハッキング計画


「どうしてファーウェイがうちの研究先を全て知ってるんだろ」

「萌絵さん、アルファアイティーシステムの藤井社長はうちの共同研究先の資料紹介したし、W大の研究室にも一緒に行ってましたよ」

エリは資料をチェックしながら深田の独り言に答えた。藤井はファーウェイと関係があるのか、そんな疑問が湧き上がる。

「でも、どうして研究室なんだろう」

「うちが受けた政府研究計画の衛星実験だ」

マイケルがカフェラテを啜りながら深田を見た。

「単なる動画伝送実験にどうしてファーウェイが興味あるの?」

「衛星へのハッキングは解放軍最大のミッションだ。いいか次世代型の戦闘機は全て衛星による中央管制だ。中国が戦争を始める時の課題は衛星通信をいかに阻害するか。衛星を直接攻撃するか、衛星をハッキングするか2つに一つ」

確かに、中国はここ数年ほど衛星攻撃兵器ASATの開発に躍起で、米国政府からの批判を浴びている。

http://www.jiji.com/sp/zc?g&k=201511%2F2015111000122&pa=

「衛星にハッキングなんてできるの?」

「いいか、今回の衛星実験は普通の衛星通信ではない。普通の衛星通信ならデータリンクを利用するが、今回の衛星通信はコントロールリンクへのアクセスだ」

「でも、動画を伝送するだけなら危険はないはず」

「単なる圧縮動画伝送実験ではない。政府研究所のエンジニアが動画処理に必要なアルゴリズムを開発したと言ってただろ?」

「あのイラン人の?そう言えば、プログラム貰って無いよね」
深田はハッとする。イラン人は動画処理のプログラムもチップに埋め込みたいので提供すると言ってたのにいっこうに出して来ないのだ。

「それと、政府研究所の人間が食堂でボヤいてただろ?情報収集衛星研究室に北朝鮮人が採用されたって」

確かに、日本の政府研究所の衛星関連の研究室に悪の枢軸国から来たエンジニアが出入りしている事態はヤバい気もする。
衛星の管理は総務省の管轄だが、日本の衛星利用は米国政府とシェアされている。ということは、アメリカの次世代型戦闘機が日本の領域を通る時には日本の衛星を利用する。

「中国は日本に攻める時に、アメリカの干渉を防ぐ為に衛星を狙ってるってことなのね?」

「確認の為に政府研究所に行こう」

そう言って、マイケルと深田は政府研究所に向かった。

研究所ではいつも通りイラン人が白い歯を見せて出迎えてくれた。

「実は、中国スパイ企業ファーウェイが現れて今回の衛星実験を狙ってるんです。早く理事長に知らせた方がいいのでは無いでしょうか」
深田は単刀直入に聞いた。

「ス、スパイ?ハーッハッハ!深田さん、映画の見過ぎじゃないですか?世界大戦は終わって世界は平和なんですよ。それにファーウェイはいい会社です。開発が間に合わないから言い訳言ってるんでしょ、もっとマシな言い訳考えてよ」
イラン人は腹を抱えて笑った。

深田は何となく恥ずかしくなった。妄想だと言われたら、確かにその通りなのだ。

「ところで、ミスターイラン。チップに組み込みたいと仰ってたアルゴリズムはいつ貰えるんですか。そろそろ出して貰わないと開発が遅れます」

「そんなのいつでも出せますよ」

「それは良かった。開発に間に合いそうで安心しました。実はこのスパイ事件をFBIに報告しようと思っていたんですが、協力は頂けないんですね」

「協力するまでも無い。スパイなんていませんからね」

最後、イラン人は怒り気味に答えた。

帰りの新幹線、深田はマイケルに尋ねた。

「言われてみれば、スパイとか気のせいかもね」

マイケルはカフェラテを一口飲んで、「さぁ、それはどうかな」と答えた。

東京駅では、エリが待っていた。

「ハイ、マイケル。言われた通り大学に訪問したファーウェイ社員の名刺を貰いました」

「よし、これからFBIに行くか」

「ハァ?FBI?ここ、日本だよ」

深田が目を丸くすると、マイケルはニヤニヤ笑ってタクシーに乗りこんだ。

深田萌絵の運命やいかに…

続く

後日談だが、一カ月ほどしてイラン人は研究所から突然姿を消した。謎のプログラムと共に。


第9回戦追記

衛星実験に関わっていた企業に衛星ハッキングの危険性について話すと、その役員が総務省の上層部に相談に行った。
総務省の回答は、実験用に使われる衛星『きずな』は二年で引退予定なので、ハッキングされても大した痛手は無いとのことだったと伝えられた。
総務省に事の重大さが伝わらなかったため私たちは外事警察に危険性を訴えた。後に、事件はどこかから漏れたのか報道され、政府研究所は実験に利用する回線を衛星から専用回線に差し替えた。
あるジャーナリストから、内調に事件を報告し、外事警察は本件を監視していると連絡を受けて胸を撫で下ろした。
そこから暫くして、日本という国は一枚岩でなく、正義は脆くも内部から崩れ去ることを知る。

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