深田さんの家には、イギリスで知り合ったオランウータンの赤ちゃん、アレックスがいます。
ある日、もえちゃんが会社の研修でロンドンに行かなくてはいけない時に、猫のミッシェルは言いました。
「お前はよ、どうせ一人で研修に行くのは寂しいから俺についてきて欲しいって言うんだろ?」
ミッシェルは口が悪いけど、もえちゃんが二十歳の頃からの親友で、海外に行くときはいつも一緒、大学受験の時も一緒でした。
もえちゃんは図星でした。そして、大人になったのに、寂しがり屋でちょっと恥ずかしいと思いました。
「そんなことない。もえはミッシェルなんかについてきて欲しいなんて思ってないよ」
なんて強がって、梅雨のロンドンへ会社の人たちだけと行きました。
最初の一週間は平気でした。でも、言葉も不慣れ、そして不慣れな街でお友達もいないし、もえちゃんはミッシェルを誘わなかったことをとっても後悔しました。
もえちゃんのクラスは、会社のなかでも特別なクラスで日本人は一人だけ。そして、一緒に来たはずの仲間とも引き離されて寂しい土日を過ごしました。
寂しくて、当てもなくロンドンの街を歩き、気晴らしにオバマの奥さんが好きなジミーチュウの靴でも買おうとハロッズへ向かいました。
ハロッズはイギリスでも名門の高級デパートで、はっきり言ってもえちゃんの当時のお小遣いで買えるものはあんまりありません。(お小遣いの額は内緒ですって!)
何にも買えるものもないし、つまんないなと思っていたもえちゃんは間違っておもちゃコーナーへ入ってしまいました。
そうすると、ジャングルのデコレーションのなかに一匹のオランウータンの赤ちゃんがいました。
もえちゃんが恐る恐るオランウータンの赤ちゃんを抱っこしてみると、赤ちゃんはつぶらな瞳でもえちゃんを見つめます。
値札を見ると、なんと七千円もして、もえちゃんがそれまでに集めた動物たちよりも遥かに高い値段です!
でも、もえちゃんは意を決してレジに向かいました。もしも、もえちゃんが買ってあげなかったら、この子はずっと一人ぼっちかもしれないと思って。
オランウータンの赤ちゃんを抱いて帰ると、会社の人は大笑い。だってもえちゃんは大人ですから。
これがもえちゃんとオランウータンのアレックスとの出逢いです。
もしも、ミッシェルが優しい子で、もえちゃんが意地っ張りじゃなかったら、こんなに可愛いお友達とは出会えなかったかもしれませんね!
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